体性感覚と内臓感覚

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感覚の分類

ヒトは熱い、冷たい、痛い等いろいろなことを体で感じたり、目や耳を使って物を見たり、音を聴いたりできます。感覚というのはいろいろな外からの刺激を体の特定の器官が感じとり(感覚受容器)、認識することです。感覚は大きく分類すると下記のように分類されます。

  1. 体性感覚:表面感覚(皮膚感覚)と深部感覚を合わせて体性感覚といいます。表面感覚には触覚(触れた感じ)、圧覚(押さえられた感じ)、温覚(暖かさ)、冷覚(冷たさ)、痛覚(痛さ)があります。深部感覚には運動感覚深部痛が含まれます。
  2. 内蔵感覚:臓器感覚(吐き気など)、内臓痛が含まれます。 
  3. 特殊感覚:視覚(目で見る)、聴覚(耳で聞く)、味覚、嗅覚、前庭感覚(平衡感覚)が含まれます。
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(1) 体性感覚 (Somatic Sensation)

皮膚感覚 (Cutaneous Sensation)

皮膚及び粘膜の感覚を皮膚感覚と言います。皮膚感覚はさらにいくつかの感覚に分類されています。皮膚にはこれらの感覚を感じる非常に小さい器官(受容器:感覚の入り口)がモザイク状に分布しています。

たとえば、指先には1平方センチあたり約1500のマイスナー小体、約750のメルケル触板、約775のパチーニ、ルフィニ小体があります。

体性感覚

たとえば、手の甲を鉛筆のような先の尖った物で押してみると痛いと感じる場所と感じない場所があります。痛いと感じる場所には痛覚の受容器があります。

古典的には下記の様な分類があります。

触覚(何かが触れている感覚):メルケル触板、 マイスナー小体、ルフィニ小体、自由神経終末
圧覚(押されている感覚):ルフィニ小体、 パチーニ小体、自由神経終末
・温覚(暖かいという感覚):自由神経終末、ルフィニ小体
・冷覚(冷たいという感覚):自由神経終末
・痛覚(痛いという感覚):自由神経終末

皮膚の感覚受容器

実際には、これらの感覚は単一種の受容器で受容されるのではなく、複数種の受容器で認識されると考えられています(複特異性)。

感覚受容器に入った感覚シグナルは感覚繊維を通って中枢へ伝達されます。

2点閾値

皮膚の近い2点(たとえば5mm間隔)を先端が尖ったもので触れてみると 2点と感じる部分と1点にしか感じない部分があります。2点と感じる最小距離を2点閾値と言い、体の場所によって2点と感じる距離が違います。たとえば、口唇、顔、指先等は2点閾値が小さい場所です。

皮膚の2点閾値

Weberの法則

ある刺激Sに対してその強さを変化させたときに違いを認識できる最小変化を△Sとすると、△S/SはもとのSの強さをさまざまに変化させても一定である。これをWeberの法則といいます。たとえば100gのおもりを持ったひとが5gの重さの変化を感知できる場合、1000gのおもりを持つと50gの重さの変化を感知できます。

深部感覚 (Deep Sensation)

(1)運動感覚

眼をつぶっていても関節や手足の動きがわかります。これには皮膚の感覚受容器や深部の感覚受容器が関与しています。たとえば指などの皮膚の感覚受容器が豊富な場所ではそれらの受容器からの情報が役立っています。それに反して、大きな関節等の場合は深部感覚の受容器が重要です。

深部感覚の受容器としては筋肉の中にある筋紡錘(Muscle Spindle) や腱の中にある腱紡錘(Tendon Spindle) という紡錘形をした張力の受容器(器官)が筋肉や腱の動き(伸縮)を感知します。それ以外にパチーニ小体やルフィニ小体も運動感覚にとって重要です。

(2)深部痛

筋肉痛や腱、関節、骨膜などの痛み。広汎性で持続的な痛みである。受容器は自由神経終末です。

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(2) 内臓感覚 (Visceral Sensation)

臓器感覚

空腹、渇き、吐き気、などの感覚を臓器感覚といいます。臓器感覚の受容器には自由神経終末、圧受容器、化学受容器などがあります。内蔵からの感覚刺激は大脳皮質に到達するものと脊髄や脳幹で再び臓器にもどり自律反射を起こすものがあります。

内臓痛

内臓におこる痛みのことです。受容器は自由神経終末です。内臓痛は皮膚の痛みとは違い、非常に限局した傷害では起こらず、臓器が広範囲に損傷を受けた場合に感じられます。痛みの原因となるものに虚血、化学刺激、けいれん等があります。痛みは神経を通って脊椎から脳へと伝え られますが、その際、皮膚の特定の部分に不快感や痛みを感じることを 関連痛(Referred Pain)と言います。

関連痛の部位

たとえば肝臓疾患の時に右肩、心臓異常の時に左上腕に痛みや不快感を感じることがあります。 これは脊髄で内臓からの感覚神経と皮膚からの神経が集まり、大脳皮質へ伝達される際、脊髄の同じレベルからの内臓神経痛を中枢が皮膚からの痛覚刺激として認識するからです。関連痛は内臓疾患の診断に非常に重要です。

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体性・内臓感覚の分子機構例

触覚の分子機構

最近、ほ乳類において触覚に関係があると思われる分子が同定されました。Brain sodium cannel 1 (BNC1)というナトリウムチャンネル蛋白(イオンチャンネル)は毛根周囲に分布する自由神経週末に発現していることがわかりました。

この蛋白の発現をブロックした動物と正常の動物を比べると軽度の機械的刺激に対する反応がブロックした動物において低下しています。生体内では機械的刺激によってイオンチャンネルがオープンし、レセプターポテンシャルが発生します。それが神経細胞膜の脱分極を起こし、神経のアクションポテンシャルが発生、中枢へ感覚刺激が伝わります。

この蛋白以外にも神経週末やメルケル触板に発現している別のイオンチャンネルも同定されています。これらの蛋白にホモロジーが高い同等の機能を持った蛋白分子が線虫(C. elegans)にも発現しており、生物進化の過程でよく保存されていることがわかります。

痛覚の分子機構

Capsaicinという唐辛子の成分に対する受容体であるVR1はカチオンに対するイオンチャンネルの一種であり、感覚神経に発現しています。このイオンチャンネルは熱などによる痛覚刺激に反応することがわかっています。またATPに対する受容体であるP2X3レセプターも痛覚刺激に関与しています。

感覚の受容器(レセプター)が機械的刺激を受けると電位が発生します。この電位は最高100ミリボルト程度でこれは活動電位と同程度です。受容器の刺激によって電位が閾値(Threshold)を越えると神経線維に活動電位(Action potentials)があらわれ始めます。

受容器電位

ここで注目すべきことは、受容器の電位が最高値にむかって上昇し続けると、神経線維の活動電位は電圧が上昇するのではなく、神経インパルスの頻度が増加することです。これはアナログ信号からデジタル信号への変換にあたります。

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感覚の伝導路

感覚の伝導路

体性感覚のシグナルは脊髄の後根(後ろ側)から脊髄に入り、脳内にある視床(感覚の中継路)核に向かって脊髄を上行します(脊髄視床路)。温度覚、痛覚、触覚などの1次ニューロンは脊椎後根から脊椎に入り、神経繊維を変えて(2次ニューロン)対側の脊椎内を上行し延髄から視床に入ります(図中緑の経路)。さらに視床で3次ニューロンに変わり大脳皮質の感覚野に入ります。

深部感覚の神経繊維はそのまま同側の脊椎を繊維を変えずに上行し、延髄に入ります。延髄で神経繊維を変え(2次ニューロン)対側の視床に入ります(図中赤の経路)。視床に到達したシグナルは3次ニューロンとなり大脳皮質の感覚野という場所に伝達されます。感覚刺激を受けた体の場所によって感覚野の神経が連絡する場所が異なります。

感覚の投射 (Projection)

末梢の受容器からの感覚刺激は大脳の感覚野に伝達し処理されますが、感覚は刺激を受けた場所に感じます。これを感覚の投射といいます。

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大脳皮質の感覚野

大脳皮質感覚野

身体の各部の感覚受容器からの神経繊維は対側(ごく一部は同側の感覚です)の大脳皮質感覚野の特定の場所に連絡します。感覚野は中心溝の後(中心後回)にあります。これは脳の頭頂部から側頭部にかけてひとが逆立ちをしている格好になります。身体各部の受容器の数によって対応する感覚野の面積が違います。たくさん受容器を持つ場所、たとえば口唇、顔などは面積が広く、体幹、下半身等は比較的小さな面積を占めています。

大脳皮質感覚野

 大脳皮質は表層から数えてIからVIの6層からなっています。感覚シグナルはまず第IV層の神経細胞を興奮させ、シグナルは上方と下方に伝わります。このように大脳皮質では直径0.3から0.5mmで約10000個の神経細胞を含むコラム(円柱)構造が多数あります。このコラムの中で身体各部の受容器からのシグナルを処理しています。

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