消化器系の構造と消化作用
人は食物から栄養をとることが必要です。口から摂取された食物はそのままの形では体内に吸収することができません。そのため、食物を吸収できる栄養素にまで分解することが必要です。この過程を消化といいます。消化によって、
炭水化物 → ブドウ糖などの単糖類
タンパク質 → アミノ酸
脂肪 → 脂肪酸+グリセリン等
にまで分解されます。水分、電解質、ビタミン等はほぼそのままの形で吸収されます。消化は消化器系によって行われます。
消化作用は、
- 機械的消化 (Mechanical digestion):食物を小さく粉砕、混合する。
- 化学的消化 (Chemical digestion):消化酵素や酸、アルカリ等によって小さな分子に分解する。
- 生物学的消化 (Biological digestion):腸内細菌による腐敗、発酵作用によって食物を分解する。
等に分類されます。
口腔
口から摂取された食物は歯によって嚥下、消化しやすい大きさに噛み砕かれ(咀嚼)、唾液と混合されることによって澱粉(Starch)や脂肪が分解されます。口腔内には上下で合計32本の歯があります。
歯の構造
歯は図のような構造をしています。
- エナメル質 (Enamel):歯の上部にはアメロブラスト(Ameloblasts)という特殊な細胞によって形成されたエナメル質で覆われています。エナメル質はハイドロキシアパタイト(Hydroxyapatite)とさまざまなイオンで構成されており、酸、酵素などに強く非常に固い性質をもっています。
- 象牙質 (Dentin):歯の本体を形成し、ハイドロキシアパタイトでできています。
- セメント質 (Cementum):歯槽骨と歯を結合しており、多数のコラーゲン繊維を含みます。
- 歯髄 (Pulp): 血管や神経、リンパや結合組織からできており、歯に栄養を供給しています。
唾液
唾液は99%以上が水分で、比重1.005前後の弱酸性液です。唾液は1日に1-1.5リットル分泌されます。
唾液には水分以外に、
- アミラーゼ (Amylase):澱粉を分解して麦芽糖とデキストリンにする。
- リパーゼ (Lipase):胃酸によって活性化され脂肪を分解する。
- ムチン (Mucin):食物と混合され、嚥下を助ける。
- 電解質:ナトリウム、カリウム、クロライド、等
- IgA:細菌増殖を阻害
- リゾチーム (Lysozyme):殺菌作用
などを含みます。
唾液は唾液腺から分泌されます。唾液腺には耳下腺、舌下腺、顎下腺等があります。
- 耳下腺 (Parotid gland):耳下腺は漿液性のさらさらとした唾液を分泌し、プチアミン(アミラーゼ)を含みます。
- 舌下腺 (Sublingual gland):舌下腺は粘液性の唾液を分泌し、粘性が高いムチンという糖蛋白を含んでいます。
- 顎下腺 (Submandiblar gland):顎下腺は漿液性と粘液性の混合腺です。
耳下腺は舌咽神経、舌下腺と顎下腺は顔面神経より繊維を受けており、延髄・橋にある唾液核(Salivatory gland)からのシグナルを受け、唾液を分泌します。
嚥下
嚥下(Swallowing or deglutition)は、食物を胃に運ぶ運動で、口腔の筋肉、咽頭および食道の協調によって行われます。橋・延髄の嚥下中枢が三叉(V)、顔面(VII)、舌咽(XII)神経等を介して一連の運動をコントロールします。嚥下はいくつかの相に分類されます。
- 口腔咽頭相:口腔から咽頭の方に食物が押され、口唇を閉じ、舌を上方に動かすことによって食物が咽頭の方に移動します。
- 喉頭食道相:咽頭に移動した食物は口蓋帆、舌、喉頭に作用によって食道へ移動します。
- 食道相:食道筋の蠕動運動によって食物を胃に送る。
食道
食道は25-30cmの長さの筋肉でできた管で、口腔と胃をつないでいます。口腔から嚥下作用によって送り込まれた食物は蠕動運動によって胃に輸送されます。
食道は多くの層からなっています。
粘膜 (Mucosa)
- 重層偏平上皮 (Epithelium):グリコーゲンを多量に含む上皮
- 粘膜固有層 (Lamina propria):結合組織層
- 粘膜筋版 (Muscularis mucosae):薄い平滑筋層
粘膜下層 (Submucosa)
血管、リンパ管、神経叢、食道腺を含む結合組織層
外側筋層 (Muscularis externa)
- 輪状筋層 (Inner circular layer):内側にある輪状に走る筋
- 縦走筋層 (Outer longitudinal layer):外側にある縦走する筋
胃
胃(Stomach)に送られた食物は、胃液の作用によって液状の状態まで消化されます。胃内容物は迷走神経の刺激によって胃が蠕動運動をおこない、混和されます。液状になった胃内容物は少しずつ十二指腸へと送られていきます。
胃液 (Gastric juice)
胃液は1日に2L前後分泌され、99%近くが水分で、塩酸、ペプシン、リパーゼ、レンニン等を含みます。塩酸のため、胃液のpHは約1です。
胃液分泌は3つの相に分類されます。
- 頭相 (Cephalic phase):食べ物のにおいや口に入れたときに胃液の分泌が起こります。
- 胃相 (Gastric phase):胃に食物が入ることによって胃液分泌が起こります。胃神経叢やホルモン(ガストリン)分泌によります。
- 腸相 (Intestinal phase):十二指腸上部に食物がふれると胃液分泌と胃の運動が促進されます。
胃液の分泌腺(胃壁の構造)
胃壁には胃腺(Gastric gland)があり、場所によって、
- 噴門腺:噴門部にあり、副細胞が粘膜保護のために粘液を分泌
- 胃底腺:胃体・胃底部にあり、
- 主細胞 (Chief cell):ペプシノーゲン、レンニン、リパーゼを分泌
- 副細胞 (mucous cell):粘液を分泌
- 壁細胞 (Parietal cell):塩酸と内因物質を分泌
- 幽門腺:幽門部にあり、粘液を分泌
等に分類されています。
胃液の役割
胃液中の酵素等によって食物がさらに分解されます。
- ペプシノーゲン:塩酸によってペプシンになり、蛋白を分解
- レンニン:カゼインを分解してパラカゼインにする。大人では分泌されない
- リパーゼ:低pHのためあまり作用しない
- 内因物質:VB12の吸収に関与
- 塩酸:ペプシノーゲンの活性化、殺菌作用、消化の助長等
胃壁のHCl分泌機序
胃の壁細胞には大量の炭酸脱水酵素(Carbonic anhydrase(CAH))があり、血液からのCO2によって
CO2 + H2O → H2CO3 → HCO3– + H+
の反応を促進します。
HCO3–は血液にもどり、かわりにCl–が胃に取り込まれます。産生されたH+はH+-K+ATPaseによって胃内に運ばれ、かわりにK+が取り込まれます。この反応によって胃内に塩酸(HCl)が分泌されます。またこれによって、胃の静脈血はアルカリ性(Alkaline tide)になります。