呼吸運動
外界の空気を肺に取り込んだり、排出したりするためには肺を拡張させたり収縮させる必要があります。肺は胸壁内側を覆う壁側胸膜と肺を包む肺胸膜という2つの膜で覆われており、両膜の間は陰圧なので、胸郭や横隔膜を動かすことによって肺の拡張・収縮を行うことができます。
このための運動を呼吸運動といいます。呼吸運動は空気を肺に取り込む吸息運動と空気を排出する呼息運動に分かれます。
吸息運動
横隔膜が下がり、外肋間筋が収縮することによって胸郭が広がると胸腔内の容積が大きくなります。このことによって肺が拡張し、空気が肺内に流入します。
呼息運動
内肋間筋が収縮することによって胸郭が小さくなり、また腹壁筋の収縮によって横隔膜が挙上すると胸腔内の容積が小さくなります。拡張した肺自身も縮小しようとするので肺が収縮して空気が排出されます。
呼吸運動の調節
ヒトは意識しなくても安静時において1分間に15回程度の呼吸運動をしています。これは脳幹にある呼吸中枢と呼ばれる部分が呼吸のリズムをコントロールしているからです。
延髄(Medulla)には吸気運動を促す吸気ニューロンと呼気を促す呼気ニューロンがあります。吸気中枢、または背側呼吸群(Dorsal respiratory group: DRG)は吸気ニューロンからなり、呼気中枢、または腹側呼吸群(Ventral respiratory group: VRG)は吸気と呼気ニューロンからなっています。
しかし、これらのニューロン群だけでは呼吸リズムは生じず、Pre-Böttzinger コンプレックスと呼ばれる部分が自発的なリズムを生成し、呼吸リズムに関与していると考えられています。また、橋(Pons)には呼吸調節中枢(Pneumotaxic center)と無呼吸中枢(Apneustic center)と呼ばれる部分もあり、延髄の呼吸中枢に刺激を送り、呼吸リズムを修飾します。
さらに呼吸運動は以下の機構によって修飾を受けます。
- 神経性調節 (肺の受容器):肺には受容器があり、迷走神経を介してDRGにシグナルを送ります。
- 刺激受容器 (Irritant receptor):気道の上皮細胞中に存在します。ガスや粉塵等の刺激によって興奮し、咳や気管収縮を起こします。
- J受容器 (Juxtapulmonary capillary receptor):肺胞の毛細血管付近にあり、毛細血管圧や浮腫等によって興奮し、浅くて速い呼吸を引き起こします。
- 伸展受容器 (Stretch receptor):気道の平滑筋中に存在し、肺の拡張によって刺激されます。これによって、吸気が抑制されます (へーリング・ブロイヤー反射:Hering-Breuer reflex)。
- 化学的調節:動脈血中の酸素分圧(PO2)、二酸化炭素分圧(PCO2)やpHをモニターして、呼吸運動を修飾します。
- 末梢性化学受容器 (Peripheral chemoreceptors):大動脈弓(Aorta)にあり、迷走神経を介して中枢にシグナルを伝える大動脈体(Aortic body)と頚動脈分岐部にあり、舌咽神経を介してシグナルを伝える頚動脈体(Carotid body)の2種類があります。これらの化学受容器は特に酸素分圧低下に敏感で、呼吸運動を促進します。
- 中枢性化学受容器 (Central chemoreceptors): 延髄の呼吸中枢近くにあり、脳脊髄液(CSF: Cerebrospinal fluid) の pH(水素イオン濃度)をモニターします。pHが低下すると呼吸運動が促進されます。
肺気量
肺気量の名称 | 内容 |
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一回換気量 (Tidal Volume: TV) | 普通に呼吸をしているとき(安静時)に肺に出入りする空気の量。約500ml |
予備吸気量(Inspiratory Reserve Volume: IRV) | 普通に空気を吸ったときからさらにできるだけ空気を吸ったときの量。約2000~3000ml |
予備呼気量(Expiratory Reserve Volume: ERV) | 普通に空気をはいたときからさらにできるだけ空気をはいたときの量。約1000ml |
肺活量(Vital Capacity: VC) | 一回換気量+予備吸気量+予備呼気量。約3000~4500ml |
残気量(Residual Volume: RV) | 空気を最大限はいたときにまだ肺の中に残っている空気の量。約1500ml |
機能的残気量(Functional Residual Volume: FRV) | 予備呼気量+残気量 |
全肺気量 (Total lung Capacity: TLC) | 肺活量+残気量 |